Vol.
26
エンパワーメント
“エンパワーメント”という言葉がアメリカのホテルで使われる。意味は、“自分の判断で行使できる権限”のことを言う。日本でも書物などで紹介され、「あのホテルならばエンパワーメントがあるから、すばらしいサービスが提供されるにちがいない。」と期待して足を運ぶ人も少なくないと聞く。しかし、アメリカのホテルで使えるエンパワーメントが日本で使えるとはかぎらない。
たとえば、お年寄りが早朝にチェックインに到着したとする。前日は満室で部屋はスイートを除いてできていない。そうしたとき、私が働いていたホテルではスイートを提供するのが当たり前のことだった。それをフロント・スタッフが自分の権限で行った。
アメリカは弱者をいたわることをよしとする国。スクールバスが生徒の乗り降りを行うために止まれば、その道路を走っていた車も路線に関係なく一斉に止まらなくてはならない。子供を守るために法律が義務づけたことだ。パブリック・スペースで、車椅子が通れないところがあってはならない。バリアフリーが法律化されてから久しい。バスはエアー・プレッシャーで乗車口が下がる仕組みになっている。高いステップを踏めない人のためにこの装置が採用されてから二〇年以上になる。アメリカに暮らしていると、いたるところで弱者を法律が守っている例を見る。
アメリカ人は法律に従って動く人々。法律が弱者を守れば、必然的に弱者を守る心が人々の中にもできあがる。お年寄りをいたわることはとても大切なことだから、マネージャーだろうとフロント・オフィス・クラークだろうと、対応方法は変わらなくなる。だから、フロント・スタッフの権限でスイートをだすことができるのだ。一方、日本のホテルでは、上司に大目玉を食らうのではないかという恐れが先行してしまい、それができない。
アメリカのホスピタリティーは法律に基づいていて、日本のホスピタリティーは上司の気持ちに基づいているといえる場面がとても多い。これが理由で、アメリカで使えるエンパワーメントが日本では使えないという差が生まれる。同じホテル・チェーンが運営するホテルならばアメリカでも日本でも共通のポリシーだから、エンパワーメントが使えるはずと考えるのは間違え。ホテルのサービスはそれぞれの国の文化風習に基づいてできているのだから。
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著者:奥谷 啓介
1960年東京都生まれ。ウエステインスタンフォード&プラザシンガポール、ハイアットリージェンシーサイパン等勤務の後、1994年よりニューヨークのプラザホテルに就職。2005年プラザホテルの閉館に伴い退職。現在はニューヨークにてホテルコンサルタントを、また2023年6月からは長年の夢であった小説家としてデビュー。ホテルマンの経験を活かし多方面で活躍中。
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