Vol.
138
掘り出しものホテル
25 年前、ニューヨークの3スターホテルで営業をしていた友人がよく言っていたことがある。「安かろう、悪かろう、をどうして理解してくれないのかなあ」 彼が働いていたホテルは1919年に建てられた大型ホテル。オープン当初は、由緒あるホテルとして人々を魅了したが、諸所の事情で、改築が行われず、古さばかりが目立つようになっていた。古い構造ゆえ、窓から見える景色は隣のビルの壁だけという部屋もある。また、大型ゆえ、チェックインカウンターの前には長蛇の列がよくできた。そうしたことが苦情の元となり、彼を苦しめた。彼が言うことは一つ。「その分、値段が安いんだ。安いホテルに泊まって、高級ホテルと同じ経験をしたいなんていう方が理不尽なんだ」
当時のニューヨークのホテルでは、ハイシーズン、ショールダシーズン、スローシーズンの3種類の料金を決め、1月2月、7月、8月をスローシーズン、3月、4月、5月、6月をショールダシーズン、9月、10月、11月12月をハイシーズンとして、それらの料金を当てはめていた。だから、高級ホテルとエコノミーホテルの料金差は、いつでも同じ程度の差があった。
だが、1997年頃から、“レベニュー・マネージメント”が導入されると、客室料金は日々の稼働率や見込みによって変わる変動相場制となった。こうなると、「こんなに高い値段を払っているのに、どうしてこのホテルはこんなにひどいのか!」という苦情に「安かろう、悪かろう、を理解してくれ」とは言えなくなる。団体などが入り、稼働率が高いときは、上のランクにあるホテルよりも値段が高くなることがあるからだ。 もちろん、その逆もありで、「こんなに素晴らしいホテルが、なんでこんなに安く泊まれるのだろう?」となることもある。さらには、「このホテルは最高級ホテルと同カテゴリーの施設を備えているのに、いつも安い」というホテルもでてくる。それは、知名度が低いがために、集客に苦戦している証拠。これは“掘り出しものホテル”と言える。
“掘り出しものホテル”を探すときのコツは、まずホテルチェーンの傘下にない4スターホテルを集める。その中で、実際に泊まった人々のコメントを読んで見る。“料金の割に、素晴らしい施設を保有していた”とか、“料金の割に部屋が広かった”という“料金の割に”というキーワードが書かれていたら、掘り出しものホテルの可能性が高い。次に、しばらくの間、そのホテル料金を他ホテルと比べ、相対的な料金を確認しておく。実際に泊まる日の料金が、その相対的料金よりも高い場合には、団体が入っているなどの理由で、割高になっているとき。残念ながら、掘り出しものとしての価値はない。
現在の料金設定システムでは、ホテルの優劣は値段に比例しない。素晴らしい素材にもかかわらず、ホテルチェーンに入っていないがために集客が下手で、値段が安いというホテルが存在する。それを見つけるのも旅の楽しみの一つとなろう。
こちらもよく読まれています
著者:奥谷 啓介
1960年東京都生まれ。ウエステインスタンフォード&プラザシンガポール、ハイアットリージェンシーサイパン等勤務の後、1994年よりニューヨークのプラザホテルに就職。2005年プラザホテルの閉館に伴い退職。現在はニューヨークにてホテルコンサルタントを、また2023年6月からは長年の夢であった小説家としてデビュー。ホテルマンの経験を活かし多方面で活躍中。
ビートルズ・ケネディ大統領・サウジの大富豪……全世界のVIPらに愛され、マネージャーとして超一流の世界で学んだ世界標準の「サービス」「心の持ち方」「自分の活かし方」「生き方」を公開!
「アメリカのホテルで1万円儲かることが、日本のホテルでは3,780円しか儲からない」といわれるほど世界最低レベルの生産性。働けど働けど儲からないワーキングスタイルに苦しめられるのはもうやめよう。
(原作:アントニオ猪木、著:ケニー奥谷、絵:八雲)
ブラジルの中央、マッドグロッソにある牧場に生まれた「はえくん」の物語。原作のアントニオ猪木氏が自身の体験をもとに長年あたためてきた企画が、奥谷氏の手により絵本になりました。大人が読んでも楽しめる愛と友情の物語です。
サービス発展途上国日本 - 「お客様は神様です」の勘違いが、日本を駄目にする
サービスを向上させるにはスタッフを幸せにすることが一番の近道。アメリカの超一流ホテルでの経験から綴る業界改革論。
「プラザ」元マネージャー直伝、一流ホテルで恥をかかない滞在術。この一冊があなたのアメリカ滞在を変える!レジャーはもちろん、ビジネスにも役立つ情報の集積。国際人の責任として、海外に行く前にその国の常識を学ぼう。
アメリカのホテルはなぜこんなに不愉快なのか!?「日本人利用客」VS「アメリカ人従業員」。果てしないトラブルの非は、どちらにある?敏腕マネージャーがフロント・デスクの内側からみた「日米比較文化論」。
こちらもおすすめ
私が見たアメリカのホテル
人気記事ランキング
-
1位
第2回チップの誤った常識
-
2位
第27回枕チップなど必要ない?
-
3位
第89回アメリカ旅行の注意点
-
4位
第81回アメリカのホテルで守るべきマナー
-
5位
第102回人材が最も大切なアメリカのホテル
-
6位
第68回チップの額
-
7位
-
8位
第69回アップグレードを狙うゲスト