Vol.
193
データに基づくアメリカの働き方
アメリカのホテルのオペレーションは感に頼らない。日々、業務を遂行していくなかで、データを取り、それに基づいて、何をすればオペレーションをよりスムーズに動かせるか、ゲストの満足度を上げられるか、利益を上げられるかなど、可能性の高いことを見出して実行していく。スタッフは各自ジョブディスクリプションを持っていて、そうしたデータに基づき、自分が行う仕事内容を決め、それに基づきエバリュエーション(査定)が行われる。ジョブディスクリプションとイバリュエーションは自分でひな形を作成し、上司の承認を得て確定したものにする。
向上心の強いスタッフは、ジョブディスクリプションの中に、例えば「毎日、30軒のクライアントに電話をして、新しい企画を売り込む」などという面倒な活動を入れ込む。入れてしまえば、査定が行われるので、やらないわけにはいかない。だが、それを行うことで、こつこつと売上が伸びていくのが見えるし、自分で決めたことを実行し、成績が伸びるのを見ることは自己満足となり、仕事への意欲を上げることができる。また、イバリュエーションが良くなるので、ボーナスが膨らみ、昇給と昇進を加速させていく。
他方、面倒が嫌いなセールスマンのジョブディスクリプションには日々、営業マンとして行う基本事項以外のエキストラワークがあまり入らない。必然的に、クライアントを相手に接待で過ごす時間などが長くなり、経費を使う割に、売上は伸びず、イバリュエーションもよくならない。景気が悪くなり、レイオフが始まると、消えていく対象となってしまう。
イバリュエーションは上司の判断で点数がつけられるため、不満が生じるのを防ぐためと、反省ができるように、客観的に作られる。例えば、フロントスタッフの日々の業務として、ゲストのチェックイン&チェックアウトがあるが、それを査定する手段として、姿勢、笑顔、的確な案内、的確な言葉使いなどを項目として入れる。「あなたの点数は75点です。なぜなら姿勢が悪いからです」と言われれば、本人も姿勢が悪かったことに気が付くし、こうした指摘があれば、不満を抱えることをほぼ抑えられる。各自、オフィスのパソコンを開き、自分のジョブディスクリプションを確認し、日々の活動にぶれがないようにしていく。
先日、元大リーガーの日本選手が、日米の違いを説明しているテレビ番組があった。「日本の野球と違い、アメリカでは相手選手のデーターを頭に入れるのが大変なんです」と説明をしていた。それを聞いて、スポーツの分野でもホテルと同じ違いがあると感じた。感や根性が入った働き方とデーターに基づいた働き方。あなたはどちら派だろうか。
2023.12.27公開
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著者:奥谷 啓介
1960年東京都生まれ。ウエステインスタンフォード&プラザシンガポール、ハイアットリージェンシーサイパン等勤務の後、1994年よりニューヨークのプラザホテルに就職。2005年プラザホテルの閉館に伴い退職。現在はニューヨークにてホテルコンサルタントを、また2023年6月からは長年の夢であった小説家としてデビュー。ホテルマンの経験を活かし多方面で活躍中。
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